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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)2908号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人森信一の上告趣意一について。

所論は、憲法三一条違反を主張するけれども、その実質は刑訴法違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、一審判決挙示の各証拠によれば、被告人両名は大川原栄吉の顔面をめがけ殴打したのであり、従って顔面等すなわち、顔、頬、頬に接続する頚部を殴打した事実を認め得ることができる。一審判決の判示は、事実の摘示としては、正確を欠くけれども、いまだもって判決に影響を及ぼすべき違法があると認めることはできない。原判決は理由を異にするが、一審判決を維持した結論においては正当であるに帰する。)

同二について。

所論は、原判決が大審院判例に違反すると主張するが、引用判例は事案を異にするから本件に適切でなく、適法な上告理由とならない。(なお、一審判決判示の「昭光方」とは、一審相被告人大河原昭光の肩書居宅を指示するものと認むべきことは、原判決説示のとおりであって、本件は、引用証拠と認定事実との間には何らくいちがいはなく、また、引用の判例の事案のように、屋内と屋外とで犯情に影響ある事案でもない。)

同三について。

所論は、憲法三一条違反をいうが、その実質は理由不備、事実誤認、法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条に当らない。(一審判決の判示する事実によれば、判示猟犬が一審相被告人大河原昭光方(その肩書居宅)に入って来た趣旨であること明らかであり、そしてまた被告人等が、判示猟犬の昭光方に入って来る前に所論の共謀をしたと認定した趣旨でないこともまた明らかである。また判示猟犬は所有者斎藤善男によって八年間も飼育訓練され、毎日運動のため放してやると夕方には同家の庭に帰って来ていたことが認められ(記録四五丁以下、四九丁以下)、このように、養い馴らされた犬が、時に所有者の事実上の支配を及ぼし得べき地域外に出遊することがあっても、その習性として飼育者の許に帰来するのを常としているものは、特段の事情の生じないかぎり、直ちに飼育者の所持を離れたものであると認めることはできない。)

同四について。

所論は、判例違反及び憲法三一条違反を主張するが、その実質は法令違反の主張にすぎず、かつ判例違反をいう点は原審で主張も判断もなかった事項に関するものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお本件のような場合、所論三個の罪のうちいずれを犯情もつとも重しと認め、これに併合罪の加重をしたかを判決に明示することは望ましいが、判示しないからといって直ちに違法ということはできない。原判示はこの点の理由において妥当を欠くきらいがあるが、なお原判決を破棄する理由となすに足りない。)

同五について。

所論は、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

その他記録を調べても同四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

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